一冊のはなし

3月の頭に調子が悪くなったのには実は原因があって

それは自分の想いを無限に吸収しようとする人に

また吸収されたからだった。

それによってただでさえできるだけ狭く、ひっそり、

自粛している人間関係の中でほかの人にまで亀裂が入りそうになり

怒ってもう二度と連絡してくれるなよと言ったのだった。

ただ誰とでも縁が切れることは痛みを伴うわけで、

大昔結婚を前提に付き合っていたので

防御力0になっている今比較的きついことであった。

2ヶ月後の昨日になって連絡が来て、

それは初めて聞く謝罪の言葉だったのだけれど

もう返信することはなかった。

自分の醜さが顔を出す時、こんなに汚れているのかとハッとする。

金輪際連絡するなと言ったからには、連絡先を全部拒否すれば良かったのだ。

そうしなかった自分は、きっと待っていたのだ。

そのくせ、返信は絶対にしないとも思っていた。

わたしは勝って終わりにしたかった。

それで今までの全ての痛みを解消したようだけれど

遠くから見ればこんなにくだらないことはない。

自分の悪意に気がついて、昨日は気分が悪かった。

勝った負けたみたいな土俵にはもう立たない。

 

 

思えば彼のことがとても好きだった。

どこがというと、へんてこなところが好きだった。

初めの頃は会うたび性格や口調が変わっていて

どうやらいつも誰かに対して演じているらしく

見た目は中性的でかなりな美形だったので

本人は多分中性的なイメージだったのかもしれないが

初期のころはオカマ口調だった。完璧に間違えていた。

関係は変われど長い付き合いだったので

違和感のない普通な感じになっていったけれど、

最後の方に行った居酒屋の彼のボトルキープの名前が

”りゅうちぇる”だったので、よそではまた何かやっているのだなと思った。

街中を歩いていて唸り声をあげたと思ったら、

自分よりお洒落な人を見るとむかつくと言ったり

得意げでいじっぱりな知識マウンティングばかりの話し方も、

わたしのことを馬鹿にするときの優越感に浸っているところも、

大昔複数の異性から何百万もぶんどって

弁護士沙汰になっても悪びれていないところも、

飲み屋で酔っ払って優等生でーす!と言い周りをドン引きさせたところも、

自分のことが好きすぎるゆえに人よりもよっぽど醜く脆いところも、

傷つけるようなことを言って人の反応を楽しんだりするような

意地汚いところも、全部ひっくるめて、めちゃくちゃに大好きだった。

やがて知識のことではバカにしなくなりはじめて

少しでも自分のほころびが見えないようにかまえている姿も

本当に愛しくて仕方がなかった。

勿論わたしの話しを聞いてゲラゲラ笑う愉快な人でもあったし

彼に会う前の道中ではいつもワクワクしていた。

ただ今まで接してきた人の中で強烈なキャラクターで

会うたびに驚くような語録がポンポン出てきていたので

彼のことを書いたり人に言ったりすると、凄い性格の悪い人みたいになってしまう。

というかこんな風に書いている自分のようがよっぽどなのだけれど

それが、それでも、本当に好きで好きで仕方なくて

嫌なことも例外的に許せるような人だった。

この記憶を全部忘れたくないと思う。

 

おわり。