2021/08/12 サリンジャーに

最近、よく主治医が重度のPTSD患者のケアをしていた時の話しを思い出す。

先生はプロだ。人を見るプロだし、ついでに言葉を操るプロでもある。

いつも言葉を選んで話しをしていることがわかるし、

先生が選んで渡してくれる言葉に救われたりする。

そんな先生が間違いなく「僕が診ていたのは全員人殺しだったんだけど」と言った意味を

ここ数日ぼんやりと考えていた。

 

 

人類史を見れば人殺しをせずに人生を平和に過ごせる時代なんてほとんどない。

人を殺したことによる(戦争に参加したことによる)後遺症は

現代でこそその深刻さに目を向けられるけれど、

元々人類がずっと抱え続けていた問題だった。

その深刻さはPTSDと診断されたことのある私は少しばかり理解した気になっているけれど、

改めて考えると、まともな世界なんてどこにも存在していないのだと分かる。

 

そういう時、サリンジャーを読むと何故か少し楽になる。

何も解決しないのだけれど、心が落ち着く。

 

サリンジャーについて書かれた本を読んだ時、それを書いた人が

”青年期に私たちの誰もが自分は修復不可能なほど壊れていると感じる。サリンジャーの本を読むとそうした感情が少しばかり癒される。どうしてだかわからないけれど”

のようなことを言っていて、それにとても同意した。

 

私たちの誰もが壊れている。

 

それでいいのだな、と思った。