2020/11/12 枯れ衰える国に産まれて

日本という地域は大変魅力的だ。

そこで産まれ育たなければ得られない能力もたくさんある。

その一つに「空気を読む」ということがある。

西洋の価値観で育ってきた私でさえ、”東アジア”的価値観が身についているし、それを疑問に思わずに感覚として理解できる。

「自己の主張」より「全体との調和」を優先することで生き延びてきた。

もっと言えば、極東にいるということは、武力的な力が弱く、

逃げることで生きながらえ、そして武力の代わりに知力が発達した人たちだということじゃ。

 

しかし、栄枯盛衰という言葉があるように、必ず豊かになった次にはそうでない未来が待ち受ける。

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”女性は家に帰れ”という、ナチズム的でもある後進的な思想が、高度経済成長後”日本において未来を左右する大きな力を持つ人たち”の考え方だった。

目先の比較的安定した経済を優先した結果、未来に生きる私たちがそのしわ寄せを正面からくらうことになった。

もっと緩やかに衰退していく道も選べたはずなのに。

 

日本の近代史も悲劇的だが、第二次世界大戦以降の現代史も本当に酷いものだ。

男性は家から排除され、女性は家に縛りつけられ、

その子どもは女性だけに育てられ、父親との関係は希薄になる。

大勢の人たちから育てられることは実はとても大切なことだ。

大人の平均値を割り出せるからだ。

それをしないと子どもは簡単に歪む。

 

実体験として、辟易しているのが、保守的な同年代の男性は、女性に専業主婦になって欲しくて、家の仕事をできれば女性に任せたいと思っていることだ。

自分と周りの人間のために自力で美味しい食事を作ることができない。

誰でもできるはずのことなのに、労働力を不当に吸い上げられているためか、その時間にさくことができない。

食べ物で、人の身体のほとんどが作られているのに。

そういうことこそ、本当に大切なことの一つなのに。

 

さらに、ごく稀に、社会に出て働きたくないから専業主婦になりたいという女性もいる。多分それは男性がヒモになりたいと同じような感覚なので特にあんまり言うことはない(なぜならばそう言う人の話を自分の少ない体験から聞くと「家を守ることで外で働く人を守りたい」という思想ではなく、自分のことしか考えていなかったから)。

悲劇的なのは、そう思っていることが社会の仕組みによる価値観の文脈から派生していると気づかずに、あたかも自分の価値観として所持しているところだ。

 

私たちの地域にこれから産まれる人は本当に気の毒だ。

一度衰退すると、相対的にあらゆる産業が貧困化する。

経済的に他国から食い潰されたあと、その時の倫理観にしたがって、どこかの国の属国になることはもはや目に見えている。

 

だからこそこの国で出産適正年齢期に”普通”に子どもを産むことはできない。

 

ただでさえ、女性というだけでたとえ能力があったとしても、能力のない男性よりも稼ぐことができない。職業と年代別に男女が稼いでいる統計を見るとかなりエグい。

入試で女性だからという理由で点数を失う。

 

祖母は女性だから数年しか社会で働くことができなかった。

母は女性だから大学に行けなかった。

父は祖父の身体が弱かったから貧しい暮らしを余儀なくされたが、たとえ祖母が社会に出ても女性だから男性と同じように働いても同じような対価は得られなかっただろう。

父は、社会に出てお金を稼ぐことができる。

そしてそのお金で子どもを養っている。

母は、家の仕事ができる。

そしてお金を稼ぐ以外のほとんどの仕事を担い、子どもを養っている。

父は、家のことはほとんどできない。

母は、父と同等の金銭を稼ぐことができない。

でもそれは母や父が元々持つ能力ではない。

 

母が大学に進学し、学びたいことを学べば、やがて学者になっただろう。

そしてそれは国益になったはずだ。

父が大学に進学できたのなら、役員レベルにはなれただろう。

そしてそれは国益になったはずだ。

 

 

最後に、堀潤さんの『わたしは分断を許さない』の序章を引用して終わる。

 

そんなに難しいことを言いたいわけではなかった。金よりも大切なものがあるはずだ、ということを伝えたかっただけだ。一度失ってしまったら取り返しがつかない悲しみを背負うことになる人々を冷笑さえする空気が辛かっただけだ。ささやかな幸せを手にするために懸命に生きてきた人々の努力をなかったことのようにして、大義を振りかざし、沈黙を強いる権力者がいることに憤っただけだ。そして、そうした強者に媚びて、忖度し、現実を見るべきだと開き直るメディアで働く人間がいることが虚しかったからだ。マスメディアこそ、かき消されそうになる小さな声を伝え続けるべきであるのに。