新訳 反抗とおとぎ話
「別にね、誰に何でもかんでも洗いざらい言えばいいというものでないのもわかっているんだけれど、どうしてか自分の悪行を言わないと気が済まないんだな。きっとそうでなくてはズルいからだと思う。愚かでブヨブヨ醜いのは仕方がないのだけれども、ズルくはなりたくない。影でコソコソズルいことはしたくないんだな。綺麗な皮を被った欲の塊には絶対なりたくない。断固としてなりたくない。わたしはズルさだけはどうしても嫌だ。
地獄にうまれたわけではないけれど、随分前に心は地獄に行ってしまって、わりと捕まりっぱなしです。そんで痛みのノルマをかせたりするような時もありました。だんだん痛みにも慣れてしまって、別の痛みを探し出してはせっせと自分を死なない程度に痛めつけています。それが地獄での仕事だからです。罪が許されたらまた戻れるのかどうか、鬼たちは教えてくれません。もう罪がなんだったのか忘れてしまいました。何もかも忘れてしまいそうです。元の場所に戻ることができても、地獄のにおいは消えないでしょう。」
昔のわたしへ。
いろんな人たちが自分も地獄に堕ちるかもしれないのに、手を差し伸べて、その手を振り払い続けてもまた差し伸べてくれました。
気がついたことがあります。鬼なんていませんでした。鬼だと思っていたのは、壁に書かれた絵だったのです。
差し伸べられた手はいつしか変わり、わたしのことを掴む手になりました。
そうして太陽が見えるところまで引きずり出されたのです。
地獄のにおいなんてありませんでした。
わたしはこれから何ができるか考え続けていきたいと思います。
地獄でも必死でいてくれてありがとう。
今のわたしより。